熱海「小嵐亭」に泊まる
2011年 08月 18日
高級旅館なので普通は手が出ないのだが、某クレジット会社のキャンペインで格安で泊まれると分かり(こんなんばっかり)、4月に申し込んでいた。
熱海駅から車でおよそ15分、和田川の辺という立地。
チェックインの午後2時を少し過ぎていた時間だったが、既にお部屋係がスタンバイしていたのに驚かされた。
チェックインの手続きの間に、ロビーのソファに座っていると冷たいお絞りと抹茶がサービスされる。
ここは本館と離れがあるが、我々は当然ながら本館の客室へ案内された。といっても1フロアー5室なので、とてもユッタリしている。
部屋は数寄屋造りで、畳も襖も障子も全て本物、壁は塗り壁という本寸法。広めの次の間が付いている。
正面のガラス窓の向こうは庭園になっていて、上から見渡すと鬱蒼とした森の中に建物があるように見える。
小梅と緑茶が出て、お部屋係から館内の案内がある。浴衣が一人2枚出て、感心したのはスリッパにシールを貼るようになっていたこと。これは風呂に行ったときに、他人のスリッパと区別できるように自分で分かるサインを書くためだ。こうした細かな気配りがされているところに一流の証があるのだろう。
入浴の前に庭を散策。
ここ「小嵐亭」の前身は、明治に東宮大夫を務めた曽我祐準子爵が明治29年に別荘として建てたもので、避寒地として多くの文人、墨客が訪れたとされている。
中庭の周囲には離れが点在している。
庭の中央には池があり、錦鯉が泳いでいた。
池の周辺はあまり手入れがされておらず、むしろ自然のままの情景を残しているようだ。
立派な茶室があるが、あまり利用されていないそうだ。
木々の間に見えるのは、本館のロビー。
こういう離れが5つある。
離れ「笹」の玄関、豪華だねぇ。誰が泊まるんだろう。
大きなお世話か。
温泉は本館の最上階にあり、御影石を使った「石の湯」と、檜造りの「檜葉の湯」の二つがある。
浴室で使うタオルなどは全て脱衣所に準備されているので、手ぶらで行けるのは助かる。
24時間、いつでも入浴できるのも便利だ。
ただこのクラスの旅館で露天風呂が無いのは、いまどき珍しい。
それと「石の湯」は広くて、窓から熱海の海が見えて景観が良いのだが、「檜葉の湯」は狭くて、景色は一切見えない。
この旅館の唯一の欠点は、温泉施設が同等クラスより見劣りすることだ。
温泉目当ての宿泊には、あまりお薦めできない。
「小嵐亭」の最大の魅力は料理にある。
季節の懐石料理が一品一品部屋に運ばれてくる。
先ずは前菜、烏賊の塩辛に柚子と七味、栄螺とはじき豆の鉄火味噌和え、無花果胡麻あんかけ、心太と生うにの青海苔、南蛮漬け卸し和えと茗荷の子、菊花とんぶり和えに蛸の香り揚げの6品が、いずれも美味。
見た目も美しい。
湯上りで冷酒を呑みながら前菜をつまむだけで、もう半分は満足。
椀は鱧、まるで京料理のよう。
松茸と野菜類とのハーモニーが格別だ。
鮮魚の造りはどれも厚切りで、実に結構。
凌ぎは珍しい豆腐万頭。
初めて食したが、出汁がいい、かもぢ葱と紅葉卸しが華を添える。
焼肴は根室で水揚げされた新秋刀魚の塩焼き。
脂がのっていて、あれ、秋刀魚ってこんなに旨かったっけと思うほどこれが旨い。
「秋刀魚は根室に限る」。
口替りは椎茸二見揚げで、茄子や小芋、蓮根などの揚げ物が添えられている。
この頃になると、もう腹が一杯になり、美味しいんだけどなかなか箸が進まなくなる。
それでも完食をモットーとしているので、とにかく食べる食べる。
酢の物代わりとして出てきたのは、玉蜀黍すり流しで、かき氷とつたの葉の上に乗せられてくる。
写真を見て分かるように、料理の中味も実に結構だが、食器がまた凝っている。
料理の内容や季節感を考慮しながら容器が選ばれており、シェフのセンスが感じられる。
この後、じゃこ飯、味噌汁、水菓子と続くが、満腹感と日本酒の酔いでもう味が分からなくなってきた。
ついでに翌日の朝食も写真で紹介しておく。
とにかく全ての料理が一級品で、今まで泊まった旅館の中ではここが最高。
それと、お部屋係りのサービスがとても細やかで行き届いていた。
目配りはしているが、決して過剰にはならない。
日本旅館のサービスとしても、トップクラスではあるまいか。
国道がすぐ脇を通っているにもかかわらず、車の音は一切しない。
静寂。
聞こえるのは、蝉の鳴き声のみ。