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西バルカン6ヶ国周遊記3(附-コソボ紛争・考)

コソボは外から見ると不思議な国です。首都プリシュティナにはクリントン通りがあり、ビル・クリントンの銅像も建っています。バスで通り過ぎて写真が撮れなかったので、他のサイトから借用しました。
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建設中の国営施設は「クリントン」と名付けられるそうです。

近ごろクリントンと言えばヒラリー・クリントンを指しますし、どうも私のような下衆な人間はクリントン元大統領というとついつい例の「葉巻事件」を想い出しニヤけてしまうのですが、コソボではまるで「建国の父」扱いです。
コソボのアルバニア国旗林立とクリントン銅像を解くカギは、コソボ紛争にあると思われます。この全貌を明らかにしようと思うと、それだけでこの旅行記が埋まってしまうので、短く要約してみます。

コソボにイスラムのアルバニア人が入植してきたのは14世紀オスマントルコがバルカン半島へ進出してきた頃からです。この時代はキリスト教のセルビア人と共存していました。
19世紀末から20世紀初めにかけてセルビアとアルバニアは独立を果たしますが、第一次世界大戦以後はコソボはユーゴスラヴィア領となり、第二次大戦後はユーゴスラヴィア連邦の一つだったセルビア共和国内の自治州になります。
1974年の憲法改正でコソボの自治権が大幅に認められるようになりますが、アルバニア人がコソボの独立を求まて暴動を起こしてセルビア人との民族対立が激しくなり、却ってコソボの自治権が縮小されてしまいます。

90年代に入りユーゴが解体されると再びアルバニア人が独立を叫び、対抗してセルビア側が自治権を停止するなど対立がエスカレート。
アルバニア人側はコソボ解放戦線という武装組織を結成して武力闘争を開始すると、セルビア側は治安部隊で対抗するなど、泥沼の紛争に突入していきます。
1999年3月にはNATOが仲介して和平交渉が行われますが不調に終わり、NATO軍はコソボでの人道問題を理由にセルビアに空爆を開始します。この時、コソボの数十万人のアルバニア人が難民化します。
6月にセルビア側はコソボから治安部隊を撤退させますが、今度はセルビア人が報復を恐れて26万人がコソボからセルビアへ避難してしまいます。
その後コソボでは国連による暫定統治が行われ、セルビアとコソボとの地位交渉が行われますが、交渉がまとまらない中、2008年にはコソボ議会が独立を宣言します。
現在、欧米や日本を含む106ヶ国が独立を承認していますが、ロシアや中国、スペインなどは独立を認めていない。セルビアは依然として自国の自治領だという姿勢を崩しておりません。
(当時、国名が目まぐるしく変わっていたので、一部正式国名を使っていないことをお断りします)

こうして見ると、コソボが独立できた鍵は、1999年のNATO軍によるセルビア(セルビア人側)への空爆です。アライド・フォース作戦と呼ばれるこの作戦はアメリが主導し、攻撃の主力も米軍でした。
コソボが当時のクリントン米国大統領を建国の父のように敬うのか、これで分かると思います。

確かに当時のコソボでアルバニア系住民に対する非人道的行為が行われていたのは事実です。しかし紛争の経緯を見れば、アルバニア側のセルビア系住民に対しても同様の行為が行われていて、NATO軍の空爆は一方的だったのではという主張も否めません。
それと、この空爆はセルビア側が和平交渉において、合意文章に調印しなかったために起きたものでした。なぜセルビア側が調印しなかったのかという理由として、和平交渉の期限切れ直前にアメリカが提出した付属文章の存在があると言われています。
その内容は、「コソボのみならずユーゴスラビア全域でNATO軍が展開・訓練でき、なおかつ治外法権を認めよ」という、事実上の占領化を意味するようなものでした。
最初から到底受け容れられないような条件を出して、それが拒否されたからと攻撃したとするなら、これはかなり恣意的なものと言わざるを得ないでしょう。

コソボの独立はアルバニア側の勝利であると同時に、アメリカの勝利でもあったというのが私の見立てです。
第二次世界大戦の後半から現在に至るヨーロッパを、アメリカとロシア(旧ソ連)とのオセロゲームに例えるなら、オセロの石は着実にロシア色からアメリカ色に裏返しになりつつあります。
NATO加盟国はこれからも増え続けるでしょう。
気が付けば日本も、なんてね。その前に集団的安全保障を決めておかねば、ですか。
決してジョークじゃありませんよ。

予想以上に長い文章になってしまったので、観光記は次回にします。
今回は「オマケ」ということで。
by kanekatu | 2014-06-16 05:45 | コソボ

憂きな中にも旅の空


by kanekatu